データ基盤もAIも、外部の専門家に任せるもの。そう考えている会社はまだ多いはずです。 ところがいま、SQLを書いたことのない業務部門の担当者が、自分たちの手でデータ基盤を立ち上げ、AIで成果を出す例が増えています。 非エンジニアによるデータ活用の内製化は、何を揃えれば進むのか。実際の取り組みから整理します。
なぜいま、データ活用の「内製化」なのか
日本企業のIT内製比率は35.7%といわれます。海外では約80〜90%が内製なので、日本は「システムは外に頼むもの」という形が根強く残っています。 一方で、2030年には約79万人のIT人材が不足するという見通しもあります。 外注先の技術者を確保し続けること自体が、年々難しくなっていきます。
データ活用では、外注の弱点がさらに目立ちます。 「この数字は何を意味するのか」「どの例外を除くべきか」を知っているのは、現場の担当者です。 外部の技術者に要件を伝え、できあがったものを確かめ、また直してもらう。 この往復のたびに時間がかかり、業務の知識が少しずつ抜け落ちていきます。
業務を知る人が、自分でデータを触って確かめられれば、この往復はなくなります。 内製化の本当の価値は、費用の削減よりも、この「速さ」と「業務とのずれの少なさ」にあります。
もう1つの理由は、道具の変化です。 以前は、データ基盤を動かすにはサーバーの準備や専門的なプログラミングが欠かせませんでした。 いまは、クラウド上ですぐに使い始められ、AIがコードの下書きや修正を手伝ってくれる道具が揃っています。 「専門の技術者でなければ触れない」という前提そのものが、崩れつつあります。
内製化を支える4つの要素
うまく進んでいる会社を見ると、共通して次の4つが揃っています。 どれか1つが欠けると、内製化は途中で止まりやすくなります。
- 業務を知る人:技術より、業務の流れと数字の意味が分かる人を担い手にする
- 触れる道具:専門の技術者でなくても、自分で分析や開発を始められる道具を選ぶ
- 失敗しても困らない上限:費用や権限に上限を設け、試行錯誤を安心して続けられるようにする
- 育成:研修で終わらせず、実際に使う量が増えるところまで支える
以下では、それぞれの要素について、実際の取り組みを見ていきます。
担い手は「SQLが書ける人」より「業務を知る人」
ある沖縄の小売企業は、古い基幹系の仕組みから脱却するため、データ基盤を9か月で内製化しました。 担当したのは、SQL未経験の2名です。 選ぶときに重視したのは技術の経験ではなく、業務の知識でした。
ある物流会社(売上高8,130億円、グループ103社)でも、データ活用を立ち上げたのは、IT部門出身ではない現場経験者3名でした。 外注はゼロ、期間は6か月です。
技術は、道具とAIの助けを借りれば後から身につきます。 しかし「この数字が合わないのは、あの取引が混じっているからだ」と気づける感覚は、現場で長く働いた人にしかありません。 内製化の担い手を選ぶときは、この順番を逆にしないことが大切です。
AIの支援も、この流れを後押ししています。 ある資産運用会社では、非エンジニアがAIの支援を受けながら、基幹データベースの統合を検証しました。 開発チームには「手作業のコーディングは禁止」という方針まで出しています。 AIがコードを書くほど、「何を作るべきか」「結果が正しいか」を判断できる人、つまり業務を知る人の価値が上がります。
技術は後から身につく。業務の勘所は、すぐには身につかない。
「触れる道具」を選び、小さく始めて成果を見せる
先の物流会社が道具を選んだ理由は、次の3つでした。
- 即日で分析を始められる(環境づくりに何か月もかからない)
- IT出身でなくても、自分で触れる
- 従量課金なので、小さく始められる
この会社では、1日70万件のデータを8つのルールで処理していた手作業のツールを、社内アプリに置き換えました。 さらに、コールセンターに届いた約4万件の入電をAIで分類し、人が読めば116時間かかる内容を、約2分で把握できるようにしています。
ある小売チェーンでは、約550店舗の売上分析の仕組みを、エンジニアではない担当者が1〜2週間で初期開発しました。 それまで使っていた8種類の表計算シートを、この仕組みに置き換えています。
最初の成果は、大きなシステムでなくてかまいません。 毎日だれかが手作業でこなしている集計や、読み切れずに積まれている記録。 こうした身近な業務を短期間で置き換えて見せることが、社内の理解と次の予算につながります。
最初の対象を選ぶときは、次のような業務が向いています。
- 毎日・毎週、同じ手順で繰り返している集計や突き合わせ
- 表計算シートが何種類にも分かれ、担当者しか全体を分かっていない業務
- 量が多すぎて、人が読み切れていない問い合わせや日報などの記録
AIが答えやすいデータを、自分たちで用意する
内製化したデータ基盤にAIを組み合わせるとき、効いてくるのがデータの形です。 先の沖縄の小売企業は、AIが答えやすい専用の表構造をつくりました。 その結果、AIの回答にかかる時間は5〜10分から約1分に短くなりました。
どの項目を、どんな名前で、どの単位で持たせればAIが迷わないか。 これを判断するには、業務でその数字がどう使われるかを知っている必要があります。 AIのためのデータづくりは、まさに業務を知る人が力を発揮できる仕事です。
- よく聞かれる問いから逆算する:「店舗別の今月の売上は?」のような問いに、1つの表で答えられる形にしておく
- 名前と単位をはっきりさせる:税込か税抜か、金額は円か千円かを、項目の名前や説明に書いておく
- 社内の言葉を定義する:「既存顧客」「欠品」など、部署によって意味が変わる言葉を1つに揃える
失敗しても困らない「上限」を先に決める
従量課金の道具は小さく始められる反面、使い方しだいで費用が膨らみます。 先の物流会社では、約397ドルの利用料のうち、222ドルは書き方を工夫すれば防げたものでした。 そこで、1ユーザーが1日に使える量に上限を設けています。
大事なのは、失敗をなくすことではなく、失敗しても困らない状態をつくることです。 上限があれば、担当者は費用を気にしすぎずに試せますし、管理する側も安心して任せられます。 費用だけでなく、見てよいデータの範囲(権限)も、最初に決めておくべき上限の1つです。
- 費用の上限:1人1日あたり、チームの月あたりの利用量を決め、超えそうなら知らせる
- データの上限:個人情報などの機密項目は、必要な人以外には見せない
- 影響の上限:試作は本番の業務と切り離した場所で動かし、本番に出す前に確認する
今ある仕組みは置き換えず、新しい基盤を「足す」
内製化というと、既存のシステムを全部作り直すイメージを持たれがちです。 しかし、ある化粧品グループは、既存のデータ分析の仕組みは置き換えず、新しい価値を生むための共通基盤を「追加」する形を選びました。
担っているのは8〜10名の内製チームです。 基盤の利用者は、2024年に30名、2025年に50名、2026年8月には65名と、着実に増えています。
既存の仕組みを止めないので、現場の業務は混乱しません。 新しい基盤で成果が見えた業務から順に移っていけば、内製チームの負担も無理のない範囲に収まります。
内製チームは、最初から大人数である必要はありません。 少人数のチームが共通の基盤を整え、各部署の利用者が増えていく。 作る人と使う人の役割を分けておくと、利用者が増えても基盤の品質を保ちやすくなります。
育成は「研修の満足度」ではなく「使われた量」で測る
ある大手電機メーカーは、2030年度までにグループで2万人のDX人財を確保する目標を掲げています。 4日間の基礎研修の満足度は5点満点中4.7でした。 注目したいのは、その後の変化です。研修後、データ基盤の利用量は全社で約2倍、受講者のいる部門では約3倍に増えました。
この会社では、AIを使った社内検索の仕組みを開発する際、開発工数を90%削減しています。 あるIT企業のグループ会社も、データ活用人材を1,200名超育成してきました。
研修は受けて終わりでは意味がありません。 受講後に、実際の業務でデータ基盤がどれだけ使われるようになったか。 育成の成果は、この「使われた量」で確かめるのが確実です。
- 研修の題材は、受講者の部署の実際のデータと業務にする
- 研修後に、すぐ相談できる窓口や先輩役を用意する
- 部署ごとの利用量を見える化し、増えていない部署を支える
研修で学んだことを翌日の業務で試せるかどうかで、定着の度合いは大きく変わります。
まとめ:内製化を始める前のチェックリスト
- 担い手を、技術の経験より業務の知識で選んでいるか
- 非エンジニアでも、すぐに自分で触れる道具を選んでいるか
- 最初の対象は、数週間〜数か月で成果を見せられる身近な業務か
- AIが答えやすいデータの形を、業務を知る人が考えているか
- 1人1日あたりの利用量や、見てよいデータの範囲に上限を設けているか
- 既存の仕組みを止めずに、新しい基盤を足す形にしているか
- 育成の成果を、研修後に「使われた量」で確かめているか
データ活用の内製化は、技術者を大勢雇うことではありません。 業務を知る人に、触れる道具と安心して試せる環境を渡し、使いこなせるまで支えることです。 私たちは、データ基盤の設計や最初のアプリづくりを一緒に進めながら、最後は御社のチームが自分たちで回せる状態をつくる支援をしています。 外注に頼りきらない体制づくりを考えている方は、まず身近な1つの業務からご相談ください。
データ活用の内製化に向けた基盤づくりと立ち上げ支援も、お気軽にご相談ください。
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