お客様との通話、会議の録音、手書きの帳票、PDFの契約書。 会社にあるデータの多くは、表の形になっていません。 これまで「人が読む」しかなかったこうしたデータを、AIで分析できる資産に変える方法を整理します。
表になっていないデータが、いちばん眠っている
売上や在庫のような表形式のデータは、集計もグラフ化も簡単です。 一方で、通話の音声、議事録、帳票の画像、PDFの資料といった「非構造データ」は、 保存はされていても、ほとんど活用されていません。 中身を知るには、誰かが聞いて、読んで、まとめるしかなかったからです。
ところが、お客様の本音や現場の困りごと、ベテランの判断の理由は、まさにこうしたデータの中にあります。 表のデータが「何が起きたか」を教えてくれるとすれば、非構造データは「なぜ起きたか」を教えてくれます。
なぜ今、活用できるようになったのか
理由は、AIが「聞く・読む・まとめる・分ける」を、人に近い精度で、しかも安く行えるようになったことです。
- 聞ける:通話や会議の音声を、高い精度で文字に起こせる
- 読める:手書きの帳票やスキャンしたPDFからも、文字や表を取り出せる
- まとめて、分けられる:長い文章を要約し、用件やテーマごとに自動で分類できる
- 安くなった:ある企業の例では、通話の文字起こしと要約にかかる費用は、音声1分あたり約0.011ドル(約1.6円)でした
数百件を人が読むのは大変でも、数十万件をAIが読むのは、もはや現実的なコストで実現できます。
変換の流れは4段階
非構造データを資産に変える流れは、どのデータでもほぼ同じです。
- 取り込む:散らばった音声ファイルやPDFを、1か所に集める
- テキストにする:音声は文字起こし、画像やPDFは文字の読み取りで、AIが扱える文章にする
- 構造にする:要約し、日付や金額などの項目を抜き出し、用件ごとに分類し、個人情報を取り除く
- 使う:検索、集計、ダッシュボード、AIへの質問で活用する。表のデータと結びつけると、さらに価値が上がる
ポイントは3つ目の「構造にする」です。文字にしただけでは、まだ人が読む必要があります。 項目と分類を付けて表の形にすることで、はじめて集計や分析ができる「資産」になります。
活用例1:お客様の声を、全件で読む
ある航空関連の企業では、コールセンターに寄せられる年間約200万件の通話をAIで処理しています。 文字起こしをしたうえで、要約、個人情報の除去、内容の分類までを自動で行い、 検索や可視化の画面で、誰でもお客様の声を調べられるようにしました。 今後は、会員データと通話の内容を結びつけて分析する計画です。
ある物流会社では、約4万件の問い合わせの記録をAIで分類しました。 まず内容の近いもの同士をAIでまとめ、その結果を見ながら人が11の用件に整理し、残りの分類をAIに任せています。 すべてを人が読めば116時間かかる量を、約2分で把握できるようになりました。
活用例2:通話や会議の記録を、自動で作る
営業やサポートの担当者は、通話のあとに内容を記録する作業に、意外なほど時間を使っています。 あるSaaS企業では、すべての通話を自動で文字起こしして要約し、記録を作る仕組みにしたことで、 通話後の記録作業の時間を半分にしました。
記録が全件そろうと、担当者による書き方のばらつきもなくなります。 「どんな質問が多いか」「どの説明で成約しやすいか」を、全件から分析できるようになります。
活用例3:手書きの帳票、PDF、図面を探せるようにする
紙で受け取った申込書や、スキャンしたままの帳票は、AIで文字や表を読み取ってデータにできます。 決まった様式ごとに細かい設定をしなくても、必要な項目を抜き出せるようになってきました。
ある通信会社では、図面やExcelの資料をAIで読み取り、自然な言葉で検索できるようにしています。 ある小売向けのマーケティング企業では、店舗に関する資料の読み取りと検索をAIで行い、 数時間かかっていた店舗の調査が数分で終わるようになりました。 「どこかにあるはずの資料」を探す時間は、どの会社でも想像以上に大きいものです。
活用例4:会議や商談の音声から、暗黙知を取り出す
ベテランの判断の理由や、うまくいく商談の進め方は、マニュアルに書かれていないことがほとんどです。 ある飲食サービス企業では、商談の音声を資産として蓄積し、成果の出る営業の型をAIで分析して、 AIを相手にした商談の練習(ロールプレイング)にも活用しています。
ある金融機関では、会議の音声から言葉になっていない判断の観点を抜き出し、社員が相談できる「上司役」のAIに組み込みました。 人の頭の中にしかなかった知識が、組織で共有できる形に変わります。
始めるときに気をつけたいこと
1. 個人情報の除去を、最初の工程に組み込む
通話や帳票には、氏名、電話番号、住所といった個人情報が必ず含まれます。
分析に使う前に自動で取り除く工程を入れ、元のデータを見られる人を限定しておくことが前提です。
2. 分類の設計は、人が決める
AIに自由に分類させると、細かすぎたり、業務で使いにくい分け方になったりします。
AIに候補を出させ、業務の目的に合わせて人が分類を決め、そのあとの振り分けをAIに任せる、という役割分担がうまくいきます。
3. 用途に合わせて、AIのモデルを使い分ける
要約や分類のような処理は、高性能で高価なモデルでなくても十分な品質が出ることが多くあります。
件数が多いほど、費用の差は大きくなります。いくつかのモデルで試し、品質と費用のバランスで選ぶのがおすすめです。
4. 表のデータと結びつける
通話の内容だけでも発見はありますが、顧客の属性や購入履歴と結びつけると、価値が大きく上がります。
「どんなお客様が、どんな不満を持っているのか」まで見えるようになるからです。
そのためにも、非構造データは、表のデータと同じ基盤に集めておくのが理想です。
まとめ:最初の一歩を決めるための質問
- 社内で、録音や紙・PDFのまま眠っているデータは何か
- その中に、毎月人が時間をかけて読んだり、まとめたりしているものはあるか
- テキストにしたあと、どんな項目や分類で整理すれば業務に役立つか
- 個人情報を取り除く工程と、見られる人の範囲を決めているか
- 顧客データなど、結びつけたい表のデータはあるか
音声や手書き、PDFは、これまで「保存しておくもの」でした。 AIを使えば、それが「分析できるもの」に変わります。 まずは、毎月だれかが時間をかけて読んでいる記録から始めてみてください。効果がいちばん見えやすい場所です。
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