データ基盤データマネジメント組織

全社データを「組織で運営する」データメッシュの考え方

全社データを「組織で運営する」データメッシュの考え方

全社のデータを、中央の1チームが集めて整えて配る。 このやり方は、データの種類と使う人が増えるほど、どこかで行き詰まります。 事業部門が自分たちのデータに責任を持ち、共通のルールで共有する「データメッシュ」の考え方と、先行する企業の取り組みを整理します。

なぜ「中央の1チーム」では回らなくなるのか

多くの会社は、データ活用をまず情報システム部門やデータ専門チームに集めるところから始めます。 最初はそれで十分です。ところが、使う部門が増え、扱うデータが増えるにつれて、2つの問題が表に出てきます。

1つは、中央チームがボトルネックになることです。 「このデータを使えるようにしてほしい」という依頼が積み上がり、数か月待ちが当たり前になります。 もう1つは、中央チームには業務の意味が分からないことです。 「この項目は何を表しているのか」「この数字はどの時点のものか」を知っているのは、そのデータを生み出している現場です。

かといって、各部門が好き勝手にデータを持てば解決するわけでもありません。 完全に分散させると、データは部門ごとのサイロに閉じ、項目の定義や権限のルールもばらばらになります。 隣の部門のデータは「あるらしいけれど、どこにあるか分からない」状態になってしまいます。

集めすぎても、ばらけすぎても回らない。必要なのは、その中間の設計です。

データメッシュとは:分散した責任 × 共通の基盤とルール

データメッシュは、この中間を形にした考え方です。 データの中身に責任を持つのは、そのデータをいちばんよく知る事業部門。 一方で、データを置く基盤、権限やマスキングの仕組み、品質の基準、共有の方法は、全社で共通にします。

データ活用の3つの形の比較。中央集権型は中央チームがボトルネックになり、完全分散型はサイロ化する。データメッシュは事業部門が責任を持ち、共通の基盤とルールで共有する 中央集権型 CENTRAL 中央チームが ボトルネックに 業務の意味が 分からない 完全分散型 SILOED データが部門に 閉じる(サイロ) ルールが ばらばらになる データメッシュ MESH 事業部門が 責任を持つ 共通の基盤と ルールで共有 分散した責任 × 共通の基盤とルール
責任は事業部門に分け、基盤とルールは全社で共通にする

ポイントは、責任は分けても、ルールと基盤は分けないことです。 部門ごとに別々のツールや別々の権限の考え方を持ち込むと、それはメッシュではなく、ただのサイロの集まりになります。

データを「製品」として扱う

データメッシュの中心にあるのが、「データプロダクト」という考え方です。 部門が持つデータを、他の部門がそのまま使える「製品」として整えて公開します。 製品なので、中身の説明、更新の頻度、品質の基準、問い合わせ先がはっきりしていて、使う側が安心して再利用できます。

ある大手製薬会社では、研究、顧客、リアルワールドデータ、安全性、臨床といった複数の事業領域で、それぞれデータ基盤が稼働しています。 2021年から段階的に導入を進め、2024年にデータメッシュの方針を策定しました。全社の領域は2026年下期の稼働を予定しています。 顧客の統合データは、各部門が再利用できるデータプロダクトとして提供されています。

この会社は、取り組みから得た学びを4つにまとめています。

  • 価値を先に:基盤づくりそのものではなく、業務の価値から始める
  • まず取り込んでから加工する:先にデータを基盤へ集め、加工は後から柔軟に行う
  • 製品として考える:使う人を想定し、説明と品質を備えたデータとして公開する
  • 共有する:部門の中に閉じず、全社で使い回せるようにする

どれも当たり前に聞こえますが、実際には逆の順番で進めてしまう会社が少なくありません。 完璧な基盤とデータモデルを先に設計し、整えてから取り込み、部門ごとに作り込み、最後に共有を考える。 これでは、価値が見えるまでに何年もかかり、その間に現場の関心が離れていきます。 まず使い道を決め、データを集め、使われる形で公開する。この順番が、データメッシュを前に進めます。

例1の具体例:中央チームに依頼が集中する。営業部門が、新しい施策のために顧客の購買データの分析を依頼する。中央のデータチームには依頼が山積み「この項目の意味は?」と聞き返しが続く。データが届いたころには施策が終わっている部門は表計算ソフトで独自に集計を始める。営業部門が自らデータプロダクトとして公開共通のルールで、他部門も安全に再利用できる 具体例 例1|中央チームに依頼が集中する 1. 場面 営業部門が、新しい施策のために 顧客の購買データの分析を依頼する 2. 起きること 中央のデータチームには依頼が山積み 「この項目の意味は?」と聞き返しが続く 3. 結果 データが届いたころには施策が終わっている 部門は表計算ソフトで独自に集計を始める 4. 組織で運営すると 営業部門が自らデータプロダクトとして公開 共通のルールで、他部門も安全に再利用できる

事業部門に「データの責任者」を置く

責任を分散させるといっても、「各部門でよろしく」では動きません。 誰がそのデータの中身と品質に責任を持つのかを、役割として明確にすることが出発点です。

ある大手電機メーカーでは、事業領域ごとに環境を分け、各事業領域にデータの責任者を置く体制をとっています。 グループ全体では、2030年度に2万人のDX人財を育てる目標を掲げています。

ある大手通信グループの1社では、データの管理者を数百名規模で配置しています。 中央の数人ではなく、現場に近い数百人がそれぞれのデータを見る。 この厚みがあって初めて、全社のデータを「組織で運営する」ことが現実になります。

データの責任者に期待する役割は、おおむね次のとおりです。

  • 意味を決める:項目の定義や計算のしかたを決め、説明として残す
  • 品質を保つ:欠損や重複、更新の遅れに気づき、直す
  • 公開を判断する:どのデータを、誰に、どの粒度で共有してよいかを決める
  • 問い合わせに答える:使う側からの質問や改善の要望の窓口になる

専任である必要はありません。業務を知る人が、役割として明示的に引き受けていることが大切です。

統制は「使わせないため」ではなく「安全に使うため」

データを広く共有すると聞くと、情報漏えいを心配する声が必ず上がります。 先ほどの通信グループの会社は、統制の目的を「使わせないため」ではなく「安全に使うため」と位置づけています。 そのうえで、見る人によって機密項目を隠す動的マスキング、外部の仕組みによるトークン化、個人を特定できないようにする差分プライバシー、行単位のアクセス制御を組み合わせています。

ルールを人の手で守るのには限界があります。 ある小売向けのマーケティング企業は、1日7億行を取り込み、100TBを超えるデータを扱っています。 この規模では、データメッシュの構成も、統制のルールも、コードとして管理しています(Governance as Code)。 ルールがコードになっていれば、部門が増えても同じ基準が自動で効き、変更の履歴も残ります。 この会社は、古い分散処理基盤を廃止することで、コストを95%削減しました。

データメッシュの構成。事業部門ごとにデータの責任者がデータプロダクトを公開し、社内のマーケットプレイスで探して使う。土台には全社共通の基盤とルールがある 使う人・AIエージェント 社内データマーケットプレイス 探す → 申請する → 使う 研究領域 データの責任者 実験データ 論文・特許 データプロダクト 顧客領域 データの責任者 顧客の統合データ 接点の履歴 データプロダクト 製造領域 データの責任者 品質データ 設備のログ データプロダクト 共通の基盤とルール(全社) 権限・マスキング 品質の基準 ルールをコードで管理
部門ごとに作って公開し、全社共通のルールの上で探して使う

「探せる・頼める・使える」共有の仕組み

データプロダクトを公開しても、見つけてもらえなければ使われません。 ある大手通信会社は、数ペタバイトから十数ペタバイト級のデータ基盤を2つ持ち、社内のデータマーケットプレイスとデータ共有の仕組みでメッシュを構成しています。 利用者はマーケットプレイスでデータを探し、利用を申請して、使い始めることができます。

物理的にデータを1か所へ集めない方法もあります。 ある通信会社では、グループ会社とのデータ共有にあたり、各社のデータベースを仮想的に集約しています。 データを物理的に1か所へ写さなくても、まとめて扱えるようにする工夫です。

この通信グループの会社は、データの所在を探すAIエージェントも開発しています。 「こういうデータはないか」と聞けば、どこに何があるかを教えてくれる。 データが増えるほど、探す手間を減らす仕組みの価値は大きくなります。

マーケットプレイスやカタログに載せる情報は、人にとってもAIにとっても同じです。 何のデータか、誰が責任者か、いつ更新されるか、誰が使ってよいか。 この4点が揃っていれば、使う側は担当者を探し回らずに判断できます。

AIが、データメッシュの運営を速くする

データプロダクトを1つずつ人手で作っていては、数が揃うまでに何年もかかります。 先の大手製薬会社は、生成AIを使ってデータプロダクトを量産する「データプロダクト工場」に取り組んでいます。

ある大手通信会社では、AIを使った開発ツールの利用者が1,500人を超え、一次分析にかかる時間が約260時間から約0.3時間に短縮されました。 仕様書を起点にAIがデータの構成を生成し、人が承認してからデプロイする流れです。 AIに任せる部分と、人が判断する部分の線引きがはっきりしています。 今後は、データだけでなく、AIエージェントやAIと業務システムをつなぐ接続ツールもカタログに載せていく計画です。

この通信グループの会社では、社内のAI基盤の利用者が2.4万人を超えています。 AIを使う人がこれだけ増えると、AIが参照するデータの責任の所在とルールが、そのまま回答の品質と安全性を左右します。 データメッシュは、AI活用を全社に広げるための土台でもあります。

人と役割をそろえる

組織で運営するには、担い手の定義も欠かせません。 国のデジタルスキル標準も改訂され、「データマネジメント」の人材類型が追加されました。 ロールは、データの意味と品質を守るデータスチュワード、データの流れをつくるデータエンジニア、全体の設計を担うデータアーキテクトの3つです。 新しい試験は2027年度夏以降に始まる予定です。

企業の側でも動きがあります。 ある大手人材企業は、データの意味(定義)をまとめた層を、AIとの窓口にする方針を掲げています。 ある大手通信会社は、職種名を「データサイエンス&マネジメント」に改め、分析とデータの管理を一体の職種として位置づけています。 この会社は、新しい進め方をまず1つのユースケースで検証し、うまくいってから横に展開しています。

いきなり全社の体制を変える必要はありません。 1つの事業部門、1つのデータプロダクトから始め、責任者・ルール・共有の仕組みを試しながら広げていくのが現実的です。

まとめ:始める前に確認したい5つの質問

  • 中央のデータチームへの依頼は、どれくらい待ちが発生しているか
  • 主要なデータごとに、中身と品質に責任を持つ人が決まっているか
  • 権限・マスキング・品質の基準は、全社で共通になっているか(コードで管理できているか)
  • 他部門のデータを、探して、申請して、使える仕組みがあるか
  • 最初に試す事業部門とデータプロダクトを、1つに絞れているか

データメッシュは、新しいツールの名前ではなく、データを「誰が責任を持ち、どう共有するか」という組織の設計です。 私たちは、事業部門ごとのデータの整理から、共通の基盤とルールづくり、部門をまたぐデータ連携の開発までを一緒に進めています。 中央チームの負荷が限界に近づいていると感じたら、それが見直しのタイミングです。

全社のデータ基盤や、部門をまたぐデータ共有の仕組みづくりもご相談ください。

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CEO・PM / 代表取締役

古川 舜也Shunya Furukawa

京都大学大学院卒業後、フューチャーアーキテクト、Dirbato にてITコンサルタントとして 大規模基幹システムの構築・CRM/SFA案件に従事。2023年に株式会社PartnerOptimize を設立。

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